俺60歳。傷だらけですけどなにか?

独身60男が筋トレと恋活にがんばる日々をつづるブログ

長浜ラーメン武闘派の話

だいぶ前になるが知り合いに頼まれ

しばらくの間、ラーメン屋さんのお手伝いをしていたことがある。

 

L字型のカウンターと小さなテーブル席がある

ごく普通のラーメン屋さんである。

 

そこの大将というのが

福岡でも有名なラーメン屋の創業メンバーで

THE・職人気質という感じの人だった。

 

当時、福岡の豚骨ラーメンが全国に広まり

雑誌ではラーメン特集が組まれ

長渕剛のように、頭にバンダナやらタオルやらを巻き

いかつい顔つきで腕組みしたラーメン屋の店主が

自分のつくるラーメンがいかにこだわりぬいた

芸術品であるかをあーだこーだと語っていた。

 

そしてにわかラーメン評論家があちこちの店を訪れ

やれ「あの店のスープはゲンコツを使っているに違いない」だの

やれ「あの麺の小麦は・・・」だのと

ネット上でしたり顔で語りあっていた。

 

その店にもそんなやからが訪れ

「大将、俺はバリカタで」

「俺は針金」

「僕は生で」などと麺のかたさを注文する。

 

大将は注文を聞くとうなずき

背中をそんな客たちに向け、テボと呼ばれる

柄のついたザルに麺を入れながら

小さく

「ケッ!」

と静かな怒りの声をもらす。

 

大将いわく

昔の博多ラーメンには

「かためん」

「やわめん」

「ふつうめん」の三種類しかなかった。

それをわけのわからん(大将いわく)

通ぶった(大将いわく)

ド素人どもが(大将いわく)

勝手にややこしくめんどくさいバリエーションを

つくってしまった。

 

「生」は湯通ししただけ

「針金」「バリカタ」は

確か、1分くらい湯につけていた気がする。

 

「こんなものがうまいわけがない」

(大将いわく)

 

そんな大将は

昔ながらの長浜ラーメンが好きで

よく夜中に一緒に食べに行った。

 

ラーメン屋につくと

ラーメンと替え玉の券を買って

ラーメンがくるやいなや

すぐに替え玉を「ふつうめん」で注文する。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが

長浜ではすぐに替え玉がくる。

次から次に客がくるので

つねに鍋の中で麺が泳いでいるからこそ

なせる技である。

 

そして大将は替え玉が来る頃には

最初の麺を必ず完食している。

来たばかりのラーメンの麺をである。

 

鬼の背中ならぬ、鬼の舌である

 

特に自分の横で

「バリカタ」とかを同時に頼む客でもいようものなら

絶対にその客より早く「ふつうめん」を

全すすりし終える。

 

そして

「ケッ!」

と静かな怒りの声をもらす。

 

「ふつうめん」食う俺より

麺をすするのが遅いやつが

「バリカタ」などとほざくなと言うことである。

丼ぶりの中でのびちまうぞ、ってことである。

 

まさにラーメン武闘派。

きっと大将にとって

ラーメン屋の店内は

金網でかこまれたオクタゴン

ようなものだったに違いない。

 

大将、お元気ですか?

 

でも

どん兵衛はなぜか

ながーくおいたままにしてから

食べるのが好きでしたね・・・。

どうみてもうまそうに見えなかったけど。